氏    名  臼 谷 友 秀 (うすたに ともひで)

学位論文題目  水文予測情報を活用したダムの機能向上に関する 研究

論文内容の要旨

 気候変動に伴う局所的な豪雨や気象擾乱の巨大化などが懸念され,はん濫や浸水頻度の増加といった河川の治水安全度の低下が予想されている。その一方で,渇水リスクの増大も指摘されており,将来にわたって治水・利水安全度を両立させ得る方策が求められている。その方策の一つとして多目的ダムの治水・利水機能が注目されている。このような中で,積雪地域のダムでは融雪期に発生する大雨に対する洪水調節が課題となっている。融雪期の多目的ダムでは水需要量を確保するため満水に近い状態まで水を貯め,わずかな容量で洪水調節が行われている。ここ数年,大雨の発生が少ないものと考えられてきた融雪期においても豪雨が発生しており,従来の洪水調節では対応できない例が見られる。本研究は,気候変動に対する適応策の一環として,ダムが抱えるこのような課題を解決し,ダムの機能向上を図ることを目的としている。
 多目的ダムの機能向上に対する有力な方策の一つとして「事前放流」が考えられる。これは,大きな洪水が予想される場合に利水容量の一部を利用して洪水調節容量を確保する操作であるが,同時に,予測が空振りしたときに利水容量が回復しないというリスクも伴う。したがって,事前放流を行うにあたっては,放流開始のタイミングと,予測が外れる場合にあっても利水容量が確保できることを条件にどこまで水位を下げられるかを判断しなければならない。これら2点を的確に判断することが課題となっている。
 事前放流を開始するタイミングに関しては,流出予測の活用が試みられているものの,予測の誤差や先行時間の短かさから,効果的な事前放流が行えるかは明らかにされていない。そこで本研究では,雨量や流出量といった水文予測情報の精度を分析し,積算予測雨量が精度および先行時間の観点からダムの放流操作に有効な情報であることを示した。この結果を踏まえ,積算予測雨量を事前放流の開始判断に活用する方法を提案した。本提案を取り入れたダム放流操作シミュレーションを行い,本提案の有効性を確認した。
 事前放流の利水に対するリスクに関し本研究では,ダム集水域の「流域貯留量」を推定する計算モデルを構築し,それに基づいて,予測が外れた場合であっても利水容量が確保できる水位を算定する新たな方法を提案した。予測の空振りを想定したシミュレーションの結果,本提案は事前放流の利水安全度を担保するのに有効であることを確認した。

論文審査結果の要旨

 本論文は,ダムの機能向上を目的として,不確実性を持つ水文予測情報の活用策を提案した一連の研究成果をとりまとめたものである。
 気候変動に伴う局所的な豪雨や気象擾乱の巨大化などが懸念され,はん濫や浸水頻度の増加といった河川の治水安全度の低下が予想されている。その一方で,渇水リスクの増大も指摘されており,将来にわたって治水・利水安全度を両立させ得る方策が求められている。その方策の一つとして多目的ダムの治水・利水機能が注目されている。このような中で,積雪地域のダムでは融雪期に発生する大雨に対する洪水調節が課題となっている。融雪期の多目的ダムでは水需要量を確保するため満水に近い状態まで水を貯め,わずかな容量で洪水調節が行われている。ここ数年,大雨の発生が少ないものと考えられてきた融雪期においても豪雨が発生しており,従来の洪水調節では対応できない例が見られる。本研究は,気候変動に対する適応策の一環として,ダムが抱えるこのような課題を解決し,ダムの機能向上を図ることを目的としている。
 多目的ダムの機能向上に対する有力な方策の一つとして「事前放流」が考えられる。これは,大きな洪水が予想される場合に利水容量の一部を利用して洪水調節容量を確保する操作であるのと同時に,予測が空振りしたときに利水容量が回復しないというリスクも伴う。したがって,事前放流を行うにあたっては,放流開始のタイミングと,予測が外れる場合にあっても利水容量が確保できることを条件にどこまで水位を下げられるかを判断しなければならない。これら2点を的確に判断することが課題となっている。
 事前放流を開始するタイミングに関しては,流出予測の活用が試みられているものの,予測の誤差や先行時間の短かさから,効果的な事前放流が行えるかは明らかにされていない。本論文では,雨量や流出量といった水文予測情報の精度を分析し,積算予測雨量が精度および先行時間の観点からダムの放流操作に有効な情報であることを示した上で,積算予測雨量を事前放流の開始判断に活用する方法を提案している。これを取り入れたダム放流操作シミュレーションを行い,その有効性を示している。
 事前放流の利水に対するリスクに関しては,ダム集水域の「流域貯留量」を推定する計算モデルを構築し,それに基づき,予測が外れた場合であっても利水容量が確保できる水位を算定する新たな方法を提案している。予測の空振りを想定したシミュレーションの結果,本提案が事前放流の利水安全度を担保するのに有効であることを示している。
 以上の研究成果は,ダム機能の高度化に加え,ダム管理の実務においても大きく寄与すると判断されることから,本論文は博士(工学)の学位を授与される資格があるものと認められた。