氏    名  盧   波(ルー ボー)

学位論文題目  多自由度球面超音波モータの構成法に関する研究

論文内容の要旨

 単体で複数の動作自由度を有する多自由度球面アクチュエータは,多次元システムの小型・軽量化に有効である。また,全軸で回転の中心が一致するため,高速な制御が要求されるロボットなどへの応用が期待されている。超音波モータ(USM)は,(1)低速時に高トルク特性を有するため減速器が不要であり,(2)自己保持力を有し停止時に通電が不要,(3)単純構造,(4)静粛性,(5)形状選択自由度が高いなど,優れた特徴を有する。したがって,USMの動画原理を応用した多自由度球面超音波モータ(MDOF SUSM)は小型ロボット機器用多自由度駆動源として適していると考えられる。
 MDOF SUSMの先行研究では,多自由度回転を生成する構成原理として,複数の1自由度超音波モータの重畳および単一のステータで任意軸回転を発生させる2種類の方法がある。前者は非常に大きな不要摩擦の影響や複数ステータの駆動調整などに問題が存在した。また,後者は棒状および平板状MDOF SUSMなどでは球状ロータへの強い予圧が構造上困難であり,高トルク化が容易でないなどの問題があった。また,筆者のサンドウィッチ型MDOF SUSMの研究において,単一でもステータとして動作できる2つの多重モード円環振動子で球状ロータを挟み込むことでトルク合成による高トルク化が可能であることを明らかにした。また,振動子構造の改良によりモータ自由度の向上および小型化に成功した。しかし,(1) 2つのステータへの均一な予圧が調整しにくい,(2)振動子支持部への不要振動の発生,(3)X(Y)軸回転方向の不一致などの解決が容易でない問題点があった。
 本研究ではサンドウィッチ型MDOF SUSMの問題点を解決するため,ステータおよびモータの構成方法について検討する。具体的には,(1)ステータの設置や予圧調整に関する問題を解決するための「ロータ嵌入型MDOF SUSM」,および(2)高トルク化に向けた「アウターロータ型MDOF SUSM」の2種類のMDOF SUSMを考案し,試作により検討を行った。
 ロータ嵌入型MDOF SUSMでは,サンドウィッチ型MDOF SUSMの2つステータの一体化による構造の単純化の効果の検討を行った。球状ロータは単一の円環状振動子に嵌入され,ロッドエンドと同様の製作方法で一体構造を実現した。ステータの表面に貼り付けた圧電板により多重振動モードを励振し,嵌入された球状ロータの3軸回転動作を実現した。構造部品点数を極限まで減少し,モータ構造の単純化により,単一デバイス化に成功した。これにより従来型に存在した予圧の不均一さ,振動子X(Y))軸回転方向の特性差,支持部への不要振動の発生などの問題点を解決した。
 アウターロータ型MDOF SUSMでは, 平行に配置された2つの円環状ステータを包み込むように球状アウターロータ(球殻)を配置し,ステータの外周部駆動によるトルクの増大を検討した。ステータは共通のシャフトに軸方向にのみスライド可能な状態で支持され,1つのバネだけでロータへの均一な予圧を実現した。動作原理通りの回転動作が得られ,サンドウィッチ型MDOF SUSMに存在する振動子回転軸の不一致の問題が解決され,予圧力の調整によりモータのトルク性能を向上できる可能性がある構成方法であることが確認された。


論文審査結果の要旨

 本論文では単体で複数の回転軸を有する多自由度球面超音波モータ(MDOF SUSM)の新たな構成方法を考案し,その有効性について検討している。超音波モータ(USM)は低速・高トルクのため減速器が不要であり,大きな自己保持力,構造の単純化や高い形状選択自由度を有するなど,電磁モータにない優れた特徴を有する。したがって,USMの多自由度化は,多くの課題を抱える電磁型多自由度モータに対して優位であるとの着想を得ている。MDOF SUSMは多次元システムの小型・軽量化に期待され,全回転軸の中心が一致するため制御演算量が少なく,高速制御への応用が想定される。MDOF SUSMでは,多自由度回転を生成する方法として,(1)複数の1自由度超音波モータの重畳および(2)単一のステータによる任意軸回転の2種類の方法があり,本研究では後者の方法で3種類の構成を考案し検討している。
 先ず,単一でもステータとして動作できる2つの多重モード円環振動子で球状ロータを挟み込む「サンドウィッチ型MDOF SUSM」において,トルク合成による高トルク化が可能であることを明らかにし,ステータ構造の改良により小型化に成功している。しかし,(1)2つのステータへの均一な予圧調整が難しい,(2)不要振動の発生,(3)2つのステータの回転軸の調整の難しさなどの問題があり,解決策として2つの構成方法「ロータ嵌入型」,「アウターロータ型」の考案に至っている。
 「ロータ嵌入型MDOF SUSM」では,サンドウィッチ型MDOF SUSMに存在した2つステータの調整の難しさをステータの一体化という発想によって改善を図っている。球状ロータは単一の円環状振動子に嵌入され,スウェッジ加工により独創性に富んだ嵌入一体構造を実現している。ステータの表面に貼り付けた圧電板により多重振動モードを励振し,嵌入された球状ロータの3軸回転動作を実現している。しかし,予圧調整が容易でないためトルク特性は不十分であるが,少ない構造部品数やモータ構造の単純化により,予圧の不均一さ,振動子X(Y)軸回転軸のずれや特性差,不要振動の発生などの諸問題の解決,改善に効果的であることを明らかにしている。
 「アウターロータ型MDOF SUSM」では,球状アウターロータ(球殻)内に2つの円環状ステータを配置し,ステータの外周部での駆動によるトルクの増大を試みている。ステータの外周部駆動は力の作用する半径を大きくすることによる高トルク化に着目したものであり,有効性は明かである。試作ではステータの励振強度に課題が残ったが,シャフト構造の工夫によりステータの回転軸のずれが解決され,動作原理および予圧力調整によるトルク性能向上の可能性が確認されている。
 以上の研究成果は,MDOF SUSMの実用化および学術研究の発展に寄与するところが大きいと判断される。よって,本論文は博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。