氏    名  フタバラット ナウアス ドム マリホット ロマウリ

学位論文題目  The explore of asymmetric catalyst for Diels-Alder reaction
        (Diels-Alder反応のための不斉触媒の開発)

論文内容の要旨

 医薬品をはじめとする生物活性有機化合物の多くは光学活性物質であり,その鏡像異性体の生体内活性の相違から,使用においては有効な一方の鏡像異性体のみが必要とされる場合が多い。従って,その一方のみを選択的に得ることのできる不斉合成法の開発が重要であり,その中でも不斉分子触媒を用いる触媒的不斉合成反応の開発は,その省エネルギー・環境調和の観点から現代の有機合成化学の最も重要な研究課題の一つである。
 本研究は,生物活性化合物の合成反応として有用な金属触媒および有機分子触媒を用いる新しい不斉Diels-Alder反応の開発 [1], [2] を試みたものである。
[1] 1,2-ジヒドロピリジン類をジエンとして用いるDiels-Alder反応(DA反応)は,様々な生物活性化合物を合成するための有用な鍵反応である。この反応によって合成されるイソキヌクリジン誘導体は,抗インフルエンザ薬 (-)-オセルタミビル,抗がん剤ビンブラスチン,さらにはdrug中毒 に有効なイボガインなどの有用な合成中間体である。よって,高光学純度でイソキヌクリジン誘導体を効率的に得るための合成手法の開発は意義が大きい。
 本研究において,Cu-ビスオキサゾリン不斉触媒 (Cu-BOX触媒) を用いる1-置換1,2-ジヒドロピリジン類とピラゾリジノン類との不斉DA反応による,高光学純度イソキヌクリジン誘導体の新しい効率的合成手法の開発を試みた。
 その結果,Cu-BOX触媒を18mol% 使用し,1-フェノキシカルボニル-1,2-ジヒドロピリジンとジエノフィルとして1-ナフチルメチル-ピラゾリジノン類との触媒的不斉DA反応を行ったとき,82% の良好な化学収率およびほぼ完全な 99% ee の優れた不斉収率で目的とする光学活性イソキヌクリジン化合物を得ることに成功した。
 本研究により,Cu-BOX触媒を用いる1,2-ジヒドロピリジン類とピラゾリジノン類とのDA反応が,これまで前例のない実用性に耐え得る高い不斉収率で目的とする光学活性イソキヌクリジン化合物を得るための有効な不斉合成法になり得ることを初めて明らかとした。
[2] 最近,化学合成における環境への配慮が要求され,次世代の環境調和型触媒として金属を配位しない不斉有機分子触媒が注目されている。有機分子触媒は,金属触媒と比較して空気中で安定であり取り扱いやすく,安価であるという利点を有する。ブテノライド誘導体および γ-ラクタム誘導体は,様々な生物活性化合物の有用な合成中間体である。よって,高光学純度でこれら光学活性体を効率的に得るための合成手法の開発は意義が大きい。
 本研究において,安価で容易に入手可能な β-アミノアルコール不斉有機分子触媒を塩基として用い,アントロンをジエン,マレイミド類をジエノフィルとして用いる塩基触媒不斉DA反応による,高光学純度ジヒドロアントラセン誘導体の効率的不斉合成手法の開発を試みた。ジヒドロアントラセン誘導体は容易にブテノライド類や γ-ラクタム誘導体に容易に変換可能である。
 その結果,β位フェニルを有するα-ジフェニル-β-アミノアルコールを20mol% 使用して,アントロンとN-フェニルマレイミドとのDA反応を行ったとき, 99% の優れた化学収率と85%ee の良好な不斉収率で目的とする光学活性ジヒドロアントラセン誘導体を得ることに成功した。
 本研究により,β-アミノアルコール塩基触媒を用いるアントロン類とマレイミド類との塩基触媒不斉DA反応が,これまで前例のない優れた化学収率と中程度の不斉収率で目的とする光学活性化合物を得るための有効な不斉合成法になり得ることを初めて明らかとした。
 上記研究 [1] および [2] の成果は,新薬創製の合成開発研究に大きく貢献できると期待される。


論文審査結果の要旨

 医薬品をはじめとする生物活性有機化合物の多くは光学活性物質であり,その鏡像異性体の生体内活性の相違から,使用においては有効な一方の鏡像異性体のみが必要とされる場合が多い。従って,その一方のみを選択的に得ることのできる不斉合成法の開発が重要であり,その中でも不斉触媒を用いる触媒的不斉合成反応の開発は,その省エネルギー・環境調和の観点からも現在の有機合成化学の最も重要な研究課題の一つである。本論文は,不斉触媒として有機金属触媒と有機分子触媒をそれぞれ用いる,光学活性医薬品合成中間体の新しい触媒的不斉合成法の開発を試みたものであり,第1章から第3章で構成されている。
 第1章では,鏡像異性体を作り分ける意義,そしてその不斉合成法について述べ,論文提出者の研究への繋がりへと展開している。
 第2章では,Cu-ビスオキサゾリン不斉触媒 (Cu-BOX触媒) を用いる1-置換1,2-ジヒドロピリジン類とピラゾリジノン類との不斉Diels-Alder (DA) 反応による,高光学純度イソキヌクリジン誘導体の新しい効率的合成手法の開発を試みた。その結果,Cu-BOX触媒を18mol% または30mol% 使用し,1-フェノキシカルボニル-または1-ベンジルオキシカルボニル-1,2-ジヒドロピリジン類とジエノフィルとして1-ナフチルメチルピラゾリジノン類との触媒的不斉DA反応をそれぞれ行ったとき,82% および 78% の良好な化学収率と 99% ee の優れた不斉収率で目的とする光学活性イソキヌクリジン化合物を得ることに成功した。合成されたイソキヌクリジン誘導体は,抗インフルエンザ薬 (-) -オセルタミビルなどの有用な合成中間体である。本研究により,Cu-BOX触媒を用いる1,2-ジヒドロピリジン類とピラゾリジノン類とのDA反応が,高光学純度で光学活性イソキヌクリジン化合物を得るための実用性に優れた不斉合成法になり得ることが初めて明らかとなった。
 第3章では,β-アミノアルコール不斉有機分子触媒を塩基として用いるアントロン類とマレイミド類との塩基触媒不斉DA反応による,高光学純度ジヒドロアントラセン誘導体の効率的不斉合成手法の開発を試みた。その結果,β位にtert-ブチル基を有するα-ジフェニル-β-アミノアルコールを30mol% 使用して,ジクロロアントロンとN-フェニルマレイミドとのDA反応を行ったとき, 95% の優れた化学収率と93% ee の良好な不斉収率で目的とする光学活性ジヒドロアントラセン誘導体を得ることに成功した。有機分子触媒は,金属触媒と比較して空気中で安定であり取り扱いやすく,安価であるという利点を有するため,次世代の環境調和型触媒として金属を配位しない有機分子触媒が注目されている。合成された光学活性ジヒドロアントラセン誘導体は,様々な生物活性化合物の有用な合成中間体ブテノライド誘導体や γ-ラクタム誘導体に変換できる有用な合成中間体である。本研究により,β-アミノアルコール塩基触媒を用いるアントロン類とマレイミド類との塩基触媒不斉DA反応が,高光学純度で光学活性ジヒドロアントラセン化合物を得るための実用性に優れた不斉合成法になり得ることが初めて明らかとなった。
 以上から本論文は,不斉触媒を用いる高光学純度医薬品合成中間体の新しい触媒的不斉合成法の開発に成功したものであり,その成果は有機合成化学分野のみならず新薬開発を目指す製薬企業への貢献も大きく期待される。よって本論文は,博士(工学)の学位に値すると判断される。