氏    名  高 橋 浩 司(たかはし  こうじ)

学位論文題目  ホタテガイ貝殻に含まれる糖タンパク質の脂肪細胞分化抑制作用

論文内容の要旨

 北海道では年間約20万トンものホタテガイ貝殻が水産系廃棄物として発生しており,有効利用法の開発が求められている。私たちは貝殻に含まれる有機成分に着目し付加価値の高い新規利用を目指し研究を行ってきた。当研究室の原らは,ホタテガイ貝殻有機成分を添加した餌をラットに食餌させその影響を調べ,貝殻有機成分が脂肪組織重量を減少させることを明らかにしてきた。私はこの作用機序を明らかにするための一助としてホタテガイ貝殻有機成分が脂肪細胞分化を抑制するかどうか培養細胞を用いて検討した。
@ホタテガイ貝殻抽出物の脂肪細胞分化抑制作用
 ホタテガイ貝殻を5%酢酸溶液に対して透析することにより炭酸カルシウムを可溶化,除去後,有機成分を抽出し貝殻抽出物として実験に使用した。また,3T3-L1前駆脂肪細胞を用いインスリンを含む培地にて脂肪細胞へと分化させた。貝殻抽出物が分化に与える影響を調べたところ,貝殻抽出物は脂肪細胞への分化を濃度依存的に抑制することを見出した。さらに,分化抑制機構について検討を行ったところ,貝殻抽出物は分化誘導後におこる細胞増殖を抑制することによって,さらにPPARγおよびC/EBPαの発現を抑制することによって分化を抑制しているものと推定された。
A脂肪細胞分化抑制因子の同定
 貝殻抽出物に含まれる分化抑制因子がどのような成分か調べ,貝殻抽出物に含まれている分子量約20 kDa前後の糖タンパク質の糖鎖部分が活性に寄与しているものと推定した。貝殻抽出物から分化抑制因子を単離するため,レンズマメレクチン(LCA)アフィニティーカラムを用いて糖タンパク質を分離し,SDS電気泳動において分子量13, 15, 17 kDaの3本のバンドをもつ糖タンパク質(SSG)を単離した。SSGが貝殻抽出物と同様に脂肪細胞への分化を抑制するかどうか検討したところ,SSGもまた脂肪細胞分化を抑制することがわかった。SSGの分子量は分化抑制因子として推定した分子量にほぼ一致することから,13, 15, 17kDaの糖タンパク質が分化抑制因子であると同定した。一方,コンカナバリンAレクチンアフィニティーカラムに結合した異なる糖タンパク質についても脂肪細胞の分化抑制活性が認められたことから,貝殻抽出物中にはSSGを含む数種類の分化抑制因子が存在し,脂肪細胞分化の抑制に寄与していることがわかった。
B脂肪細胞分化抑制因子(SSG)の構造
 単離した分化抑制因子SSGの構造について検討したところ,13, 15, 17 kDaの糖タンパク質は同じタンパク質に異なる糖鎖が結合したアイソフォームであること,タンパク質のアミノ酸組成はAsx, Gly, Serに富むこと,結合した糖鎖は他の糖鎖では見られないグルコースを多く含んでいることを明らかにした。また,部分アミノ酸配列を決定し,このタンパク質が新規タンパク質であることを明らかにした。


論文審査結果の要旨

 本学位論文は,北海道において年間約20万トンに及ぶ量が廃棄されているホタテガイ貝殻の付加価値の高い有効利用をめざし研究を行った成果がまとめられている。すでにホタテガイ貝殻中に含まれている有機成分をラットに食餌させることによって脂肪組織重量が有意に減少することを明らかにしていることから,本論文ではその作用機構,作用物質を明らかにすることを目的として研究を実施している。
 第一部では,ホタテガイ貝殻に含まれる有機成分(貝殻有機成分)が脂肪細胞の分化を抑制することを明らかにしている。また,貝殻有機成分が,@ 脂肪細胞への分化に必須な転写因子である ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)および CCAATエンハンサー結合タンパク質α(C/EBPα)の発現を抑制することによって,そして A 分化誘導後に起こる脂肪細胞の増殖を抑制することによって分化を阻害していることを明らかにしている。
 第二部では,貝殻有機成分から,脂肪細胞分化を抑制する因子を単離し,その構造についての知見を加えている。貝殻から単離した脂肪細胞分化抑制因子は分子量およそ17kDaの糖タンパク質であり,その糖鎖部分が生理活性作用の発現に必要であることを示している。この糖タンパク質の部分一次構造,単糖組成分析を行い,この成分が特徴的な糖鎖構造をもつ新規のタンパク質であることを示している。一方で,単離した糖タンパク質の脂肪細胞分化抑制機構は貝殻有機成分とは異なることから,貝殻有機成分中には複数の脂肪細胞分化抑制因子が存在していることも明らかにしている。
 最後に,貝殻有機成分中のこれらの成分がin vivoにおいても作用し,脂肪組織重量減少に寄与している可能性について討論を加えている。
 以上の結果は,貝殻の新たな有効利用法の開発に新たな知見を与えるものであり,博士の学位を授与するに十分な成果であると判断した。