短時間でインフルエンザウイルスのサブタイプを判定する
光センサーの実現に向けて

 
情報電子工学系学科情報通信システム工学コース 加野 裕


 インフルエンザウイルスは型ごとに感染性や病原性などの振る舞いが異なるため,その型を判定する手法がこれまで活発に開発されてきました。現在,主に実用されているのは,検体にウイルス由来のRNAが含まれているかどうかを調べる手法ですが,この場合,RNAを逆転写させたDNAを増殖させる必要があるため,ウイルスの型判定に数時間を要します。
 これに対し,より迅速に型を判定するために,特定の型のウイルスとそれに対する抗体との間に生じる特異的な反応をリアルタイムで検出する手法が最近注目されています。私たちはこの手法を用い,さらに,ウイルスの数が極めて少ない状態であっても,これを検出できるほど感度の高い計測を実現したいと考え,研究開発を進めています。

 抗体を用いる手法では,センサー基板の表面に抗体を固定して,これに対してウイルスが結合することによって基板表面に生じる屈折率変化などが測定されます。ただし,インフルエンザウイルスは,直径およそ100nmと小さいため,その変化はごくわずかで,屈折率を測定しようと基板表面に光を単純に照射したのでは,反射光には十分な変化が現れません。
 私たちは,金属表面の自由電子が引き起こす集団的な振動現象を利用し,この問題に対応しています。具体的には,光の振動電磁場を金属表面の自由電子と共鳴させるのですが,この振動の空間的なピッチが基板表面の屈折率によって大きく変化することを利用します。反射光の成分を調べ,振動励起によって吸収された成分を求めるとによって,基板表面の屈折率変化を知ることができます。私たちは,この振動をおよそ200nmの領域に局在させる手法を見いだし,基板表面の極微小領域の屈折率を測定を可能にするユニークな装置開発に成功しました。この測定領域でウイルスが基板表面の抗体と結合すると,それによる屈折率変化が瞬時に検出されます。これまでに,培養されたインフルエンザウイルスを用いて,この原理が期待通りに働くことを確認しています。




図1 インフルエンザウイルスのサブタイプを判定する光センサー。金薄膜をコートしたガラス基板に,放射状偏光させた励起光を超高開口数対物レンズで集光する。この光学系を用いると,集団的電子振動の励起によって,反射光強度分布に環状の光吸収パターンが現れる。このパターン半径は,金属表面の屈折率に強く依存して変化するため,金属表面の局所領域における状態変化を高感度に捉えることができる。



図2 インフルエンザウイルス検出の実験結果。リン酸緩衝液を交換しながら, センサー基板表面に,アビジンと抗体を順に固定し,そこへインフルエンザウイルスを導入する。屈折率変化を測定すると,インフルエンザウイルスによる屈折率増加を確認することができる。


 将来的には,基板表面に多種の抗体を配置することで,多種のウイルスに対する感染状態を瞬時に調べることができるのではないかと考えています。





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更新年月日:2012年1月26日 作成担当部局:企画・評価室 問合せ先:koho@mmm.muroran-it.ac.jp