応用理化学系学科の「バイオシステムコース」では,生物機能や生体材料を利用した先進的科学技術の創出につながる教育を目指しています。本稿では「微生物工学研究室」で行われている研究の一例をご紹介します。
平成15年に「土壌汚染対策法」が施行され,その汚染修復費用が13兆3千億円に達することが明らかになっています(住友海上リスク総研)。汚染の修復に関しては,「微生物の力」を利用する原位置バイオオーギュ(グ)メンテーション(微生物添加法)に大きな経済効果が期待されています。
他方,環境省が行った全国調査によると,発癌性の揮発性有機塩素化合物(VOC)の中でもテトラクロロエチレン(PCE)は土壌•地下水環境基準超過件数に占める割合が最も高かったです。これまでに20年以上の世界各地での活発な実験及び実地調査にもかかわらず未だにPCEの完全分解菌,すなわちPCE を無害なエチレンへ完全脱塩素化する菌はDehalococcoides 菌属のみでした。しかし,Dehalococcoides 菌属のみがPCEを完全分解できる唯一の菌属であると生半可に断言してはならないと思います。なぜならば自然環境中にはDehalococcoides 菌属以外にもPCEを完全分解できる微生物が存在する可能性が依然としてあるからです。
私たちは3年間の長時間にわたる研究の結果,北海道の某ドライクリーニング店周辺の下水溝汚泥からPCEの分解能の高い菌を分離することに成功しました。この非病原性Propionibacterium
sp. HK-1株は高濃度(50ppm)の[1,2-14C] PCEを図1に示したように無害なエチレンにまで分解できます。他方,当微生物工学研究室では毒性が問題になっているヒ素を汚染土壌から直接溶出できるCitrobacter
sp. NC-1株(ヒ素の還元能力が世界で最も高い細菌)や,難分解性のビフェニル及びポリ塩化ビフェニル(PCB)を増殖基質(エネルギー源)として直接利用し増殖可能な耐塩性微生物(Aquamicrobium
sp.SK-2株)も発見し,原位置浄化のために必要な様々な環境因子の検討や分解メカニズム(図2:解明できたビフェニルの分解経路)を研究しています。さらに,南極のような極寒地での汚染浄化を目指して新たな菌の探索も試みています。
微生物「自然の力」を使う利点は,手間がかからず,低コストで済むことですが,今後これらの利点をうまく活用できれば人為的な地下水・土壌の汚染浄化だけではなく,「環境エネルギー問題」や「低炭素社会の実現」といった課題の解決においても貢献できると期待しています。最後に私が考えている難分解性汚染物質の処理概念図を図3に示します。



|
|